一般社団法人 全国労働安全衛生研究会

「働き方改革」が成立しそうですが・・・長時間労働野放しでは困ります

一般社団法人 全国労働安全衛生研究会 代表 山田 厚

 

 2018年の国会で「働き方改革」が成立しました。裁量労働のデータねつ造問題もあり、働き方改革法案自体が問題とされてきました。しかも残業代ゼロ法と言われる「高度プロフェショナル」はそのまま入れられています。修正案は、「本人同意」ということで「高プロ」の対象となるか、ならないかを本人が決める、とのことですが、これも労働法の原則から言うとおかしなことです。労働者は個人では弱いからこそ、組合があり、労働法があるからです。

 

 この「裁量労働」もそうですが「高プロ」は労働時間規制からの逸脱です。残業の上限規制も「月100時間未満」もやれることができ、随分長時間で幅がありすぎます。つまり「働き方改革」法自体がおかしいのです。

 

 それは1日8時間労働制が崩されているからです。人間の身体は24時間の生体リズムで生命を維持しています。この1日単位のリズムを歪めたら心身の健康と命は維持できません。よく「残業月80時間が過労死ライン」と言われますが、これは厚労省の労働災害認定上の判断にすぎません。やはり裁量労働や「高プロ」だけでなく「働き方改革」そのものが人間の身体を無視しているのではないでしょうか。

 

 労働安全衛生の立場からも、1日8時間労働制を大切にする法律でなければ困ります。まちがった法が成立したからには、36協定も含めて職場からしっかり働く者の心身の健康を守る努力が大切となってきました。

「夏です!室温28℃以下を守っていますか?」

山田 厚(全国労働安全衛生研究会・代表)

 

 夏がきました。労働安全衛生で考えるなら主に3つです。熱中症予防と冷房病予防と、そして28℃以下の室温管理です。熱中症予防は、「自己管理で水分補給」ばかりが言われますが、それだけでは不十分です。休憩・休息時間の確保や労働密度の軽減とゆとり、複数作業要員や服装の改善と温度管理などです。水分補給でもマイボトルではなく事業者の責任で水分呼吸設備・備品を置くべきです。

 

 冷房病はタクシーや事務の職場で多く発症していました。ここでは温度管理とともに冷風が直接体に当たることがいけません。また極端な温度格差も体によくありません。

 

 最近はエアコンの改善で冷房病は少なくなりました。しかし室温管理では「いきすぎた節電」で、気温と関係なく冷房を昼間までつけないとか、室温設定を高いままにしている職場が多いようです。労働安全衛生規則・事務所衛生規則では「17℃以上28℃以下」です。したがって設定温度が「28℃」では、実効温度は28℃を超えてしまいます。

 

 このことの確認は、夏の労働安全衛生活動のはじめの第一歩です。

「夏でも冬でも考えたいこと」

山田 厚(全国労働安全衛生研究会・代表)

 

 寒さが増していますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。職場では、『節電』が強められているだけに、寒さできつい職場はありませんか?私の知っている学校職場ではエアコンの設定温度が「19℃」となっていて実際の職場の温度はそれより2~3℃も低い、それもみんな厚着やひざ掛け毛布の対応で「個人防衛」とのことです。

 

 労働安全衛生法制の事務所衛生規則の基準では室温は「17℃以上28℃以下」です。これは最低限度の実効温度です。ですからそれを上回る室温でなければなりません。夏の場合では、設定温度を「28℃」にしている職場も多いようですが、ここでも実効温度で「28℃以下」でなければなりません。

 

 それもそうですが、そこで働いている労働者が寒いとか暑いと感じたら「17℃以上28℃以下」の「以上」でも「以下」でもいいことになります。

 

 寒さの問題では、温度だけではなく、湿度と気流も合わせて点検する必要があります。問題にすべきはそこで働いている労働者の体感です。また、中央の空調が効かない、残業や休日労働の体感はどうでしょうか?

 

 労働者の体を大切にすることが労働安全衛生活動の基本です。しっかり点検と改善を目指していきましょう。

 

※もし、このことで取り組みを考えている場合には、研究会『わかりやすい安全衛生点検』No1をご覧ください。

「子ども・高齢者の安心・安全が問われる処遇でいいのか」

松澤 悦子(全国労働安全衛生研究会・副代表)

 

 政府は、「保育園落ちた、日本死ね」ブログから始まった待機児童問題を取り扱わなければならなくなりました。しかし、規制緩和による「保育の質や「子どもの人権に及ぶ対策の気構えはなく、その本質を見ていません。「介護離職ゼロ」政策でも同じです。その原因がどこにあるのか、介護職場の現状と介護者を抱える働く者の心情を無視した机上の政策で、社会保障費削減策でしかありません。

 

 これまで、保育・介護は、家族の面倒は家族の中で自己解決することが当たり前とされてきました。「外は男、内は女」と外で働くのは男性、家の中のことは女性の仕事と「役割分担意識」を固定化し、家事・育児・介護はもっぱら女性の仕事としてきました。働いていても、保育・介護のために退職するのは、多くは決まって女性です。働く女性たちが「保育の社会化」「介護の社会化の運動を続けたことによって、保育所や老人ホームに預けて働くことが社会的に認知されてきました。

 

 しかし、男女の役割分担意識によって保育や介護で働くものの処遇は「低くて当たり前と放置されてきた結果が、待機児童や介護問題につながっていることを、もう、この辺で見抜かなければなりません。

 

 女性の仕事とされてきた仕事の価値は低くて当たり前?全労働者平均の10万円も低く、専門知識を持っていても社会的に認知されていないと言える処遇。保育士・介護士のなり手がいないのでは、いくら箱ものを作ってもムダになるでしょう。

 

 育児も介護も、人の手と専門性が問われる仕事であり、保育士、介護士の賃金・労働条件の改善による安心・安全の職場なくして、人員・専門性不足による「子どもの育つ権利」と「お年寄りの生きる権利」の安心・安全は守れない。

「7月の安全衛生のことば」(2016年7月掲載)

「今こそ職場の点検 そして改善を。」

山田 厚(全国労働安全衛生研究会・代表)

 

 この参議院選挙後ますます重視する必要があるのが、職場の労働安全衛生です。「女性の活躍推進」、「高齢者継続雇用」、「成果主義労働時間制度(いわゆる残業代ゼロ法)」、「ストレスチェック制度」、「新しい人事評価」などなど本格的に運用実施されます。どれも労働者の心身の健康と安全に直接関係しています。放置してしたり事業者まかせにはできません。

 

 働くものの立場からのしっかりした取組みにむけて、改めて学習と交流が必要です。「新しい人事評価制度」と「成果主義労働時間」については、私たちの研究会からパンフを発行しています。ぜひ参考にしてください。この7月には、労働大学出版センターと研究会で協力して「女性の活躍推進」「高齢者継続雇用」「成果主義労働時間制度」「ストレスチェック制度」の4つのテーマでの『労大ブックレット』を発行します。同じく参考にしてください。

 

 今年度の大きな取組みである 「第5回自治体病院問題セミナー(外面内面)」と「25回全国労働安全衛生学校(外面内面)」の案内ができました。ここに掲示します。ぜひ、取組みをお願いします。

 

     
「2月の安全衛生のことば」(2015年2月掲載)

「今こそ職場の点検 そして改善を。」

野中 幹男(全国労働安全衛生研究会・副代表)

 

 新年早々今年も「人の生命・健康」が危機に曝される年を象徴する事件が相次いで勃発しましたね。一石三鳥の「廃棄物食品」横流し事件と15人の犠牲者を出した「ツアーバス」事故。

 

 廃棄物食品の最終処分は「人」に消費させる、だれが考えるでしょうか? 専門業者が運行するツアーバス、過去の忌まわしい犠牲を教訓に強化された運行規程のもと、誰しもが「安全運行」を信じて利用するのは当然のこと、過当競争・安価ゆえのリスクでは?

 

 これらは「業者のモラル」は言うに及ばず、政治の行き過ぎた規制緩和と行政の監視・指導体制の不備を指摘せざるを得ません

 

 “企業利益優先、人に優しくない政治のなせる業か!”

 

 近年、労働安全衛生の分野でも同根の状況が推進されています。

 

 13年改正の「高齢者雇用安定法」については、安全衛生法に規定する「中高年労働者などについての配慮」には殆どの企業が目もくれず、定年前と同じ状況下での労働を強いているとの調査結果があります。

 

 14年秋施行の「過労死防止対策推進法」については、約1年間は啓発活動に終始、過去の労働災害(公務災害)認定事例の調査・分析は殆ど行われず、未だ具体的な対策・指針が出されていない状況です。

 

 14年の「安全衛生法」改正に伴い、15年12月に「ストレスチェック制度」が義務化されました。目的とする「1次予防(早期発見)」を否定はしませんが、内容的にいくつかの問題点が見受けられます。

 

 最も危惧される点は、その実施者の殆どが職場状況を把握する産業医であることは評価しますが、規定どおり「産業医が完全に事業者から独立し得るか否か」です。独立性が確保されなければ、個々の労働者の状況を事業者が把握し、不調者に生産性疎外者として「首切り」へと誘導しかねません。

 

 総じて「個人責任に帰着させる」ことなく、この制度導入を機に、個々の職場におけるメンタルヘルス対策の実施状況をつぶさにチェック(*)し、「人に優しい」労働環境を整備させることが最も重要ではないでしょうか。

 

 (*)参照:チェックリストの所在 http://www.jstress.net/

「12月の安全衛生のことば」(2014年12月掲載)

「全国労働安全衛生学校を秋田市で開催しました。」

 

山田厚(全国労働安全衛生研究会・代表)

 

 11月22日~23日に第23期の全国労働安全衛生学校を秋田市で開催しました。今回のテーマは『労働時間と安全衛生』でした。参加者の皆さんとの交流によって、改めて「労働者の安全衛生=いのちと健康、安全が脅かされている」と感じます。

 

 今、社会的に長時間労働で無権利の「ブラック企業」のことが問題とされていますが、自治体職場でも教育職場でも大変な労働時間の状態です。
男性看護師さんの話ですが「県立総合病院の外科時代は、毎月100時間以上の残業で、ほとんどサービス労働。休憩時間は5分間ぐらいしか取れない。年休は年2日間のみです。この職場では、5年間で半分の看護師が辞めていました。ここに7年間いました。今は精神病院で年休は10日ほど取れています。ここでようやっと職場の権利とかが考えられるようになりました。あそこには戻りたくない。もし異動になったら辞める・・・。それでいま貯金しています・・・」。とのことでした。

 

 すごい状況です。安倍政権の方針で「残業代ゼロ」などといわれている『新しい労働時間制度』はこの実態を拡げようというものです。しかしその一方で、「安全衛生委員会でも頑張って取り組み、労基署にも要請して、病院の2年間のサービス労働分の支払いをさせました。今では病院ではサービス労働はありません」というところもありました。

 

 大変な状況ですが、取り組んでいる職場と、野放しの職場では大きな格差もうまれています。最低限、今の法律を守り、身体を大切にすることが求められています。そして来年に予定されている『新しい労働時間制度』をぜひとも労働安全衛生の視点からストップさせるべきです。

「11月の安全衛生のことば」(2014年11月掲載)

「安倍首相の暴走が止まりません。」

 

研究会常任会員 井加田まり(自治体研究部会・部会長)

 

 一昨年の衆議院選挙で、再び政権に返り咲き、昨年7月の参議院選挙でも圧勝、衆参とも与党が過半数を占める安定多数を背景に、安倍政権は原発輸出・再稼働や、特定秘密保護法の強行採決、集団的自衛権行使容認を閣議決定するなど、国政の重要な課題で、充分な審議を行わないまま、国民の意志に反する政治を堂々と行っています。国会の場で、国民の意志が正確に反映されないままの法案の成立を阻止するのが困難な状況にあるといえます。

 

 「特定秘密保護法」は、国民の知る権利や情報公開法の原則に反する政府原案のままで閣議決定され、12月にも法律が施行されます。「集団的自衛権」行使を容認する憲法解釈変更について、まともな国会審議を行うことなく7月1日に閣議決定し、「自衛隊法、周辺事態法、武力攻撃事態対処法など」の関連法案の改定は来年の統一地方選挙後の国会で一括審議する方針です。

 

 一方で、11月末までの臨時国会において、派遣労働者は派遣労働者のままでずっと働き続ける仕組みに変えるための「労働者派遣法」改悪を強行しようとしています。企業にとって使い勝手の良い労働者をさらに増やすために、労働者保護を撤廃しようとするもので、派遣法改悪の次には、金さえ払えば首切り自由の「解雇の金銭的解決制度」の導入や、人手不足を理由にした低賃金の外国人労働者の受け入れ、長時間労働に歯止めがかからない「ホワイトカラーイグゼンプション」導入など、労働者いじめともいえる政策を推し進めようとしています。

 

 今国会で、閣僚の政治資金問題に世論が集中している中で、法案審議の焦点ともなっている「労働者派遣法改正案」の行方について、しっかりと監視していかなければなりません。

 

 安倍政権の標榜する「積極的平和主義」とは、時の権力にとって都合の悪い情報を国民から遠ざけ、戦争への道を突き進む条件を具体化し積み上げていくことに他なりません。アベノミクスとは、働く者を犠牲にする政策をさらに推し進めることであり、労働者の健康や生活を守る「安全衛生」の考え方とは真っ向から対立する政策です。労働者いじめの法案は何としても撤回させなければなりません。

 

 そして、安倍政治の暴走を食い止めるために、戦争への道を許さない慎重な国民の声をそれぞれの地域で今以上に広げていかなければなりません。

「10月の安全衛生のことば」(2014年10月掲載)

「誰もが心地よく生きられる社会へ=弱い立場の人の声に耳を傾けよう」

 

研究会常任会員 早川由紀子(文京七中分会)

 

 猛暑と冷房に苦しめられた夏が終わり、ほっと一息の季節です。

 

 職場でも地域でも「辛いから改善して」と、声に出すことが疎まれる悲しい状況がある現代ですが、声にださなければ何も変わらない! 声に出して生きたいものです。 

 

 「うつ状態」を乗り切る方法です

 

 夏の電車は冷房が強く、乗るとたちまち痛みが出る病状の私は、遠出ができない。電車だけでなく、どこに行っても必要以上に強い冷房で、居場所がない日々でした。 

 

 職場で重度の頚肩腕障害にされて、労働能力を奪われただけでなく、身の回りのこともできない要介護の病状です。やりたいこと、やらなければならないことが溢れているのに、「できない」ジレンマに悩まされます。

 

 病状が重度になってからの長年を悩む中で、「悩むと鬱になる」に気づき、「できないことは悩まない、逃げる、あきらめる」にして、うつをやり過ごしています。

 

 この方法も、病気を抱えていると実行はなかなか難しい。必要に迫られるなか、自分に繰り返し言い聞かせて、なんとか身に付けました。ずっと前、労働組合の人に、「楽しいことだけを考える。楽しいことをやると良い」とも言われて、これもとても効果があります。

 

 理解してくれる人を見つけるのも重要ですが、闘っている人と話す、交流する、闘いの場に参加する、と、元気がもらえるし、理解してくれる人も見つかります。

 

 冬が来るまでの1か月か2か月の良い季節の内に何ができるか、しっかり計画を立てなければ!と思う今日この頃です。

向明戸静子

「8月の安全衛生のことば」(2014年8月掲載)
「あ~夏休み」でも・・・休めないのです

 

向明戸 静子・研究会常任会員(岩手県職員組合)

 

 「あ~夏休み」

 

 夏休み初日の土曜日、子ども会行事があり、一緒に海水浴を楽しんできました。震災後初の海開きをした吉里吉里海岸を含め、岩手県内7ヶ所(震災前は約20ヶ所)で海水浴が楽しめるようになりました。

 

 (さて、)この時期になると「いいね~、先生は。夏休みがあって。」とよく言われますが、それは誤解です。私たち教職員は授業や授業準備以外にも仕事(事務業務、課外活動の指導など)があるので、夏休みであろうと平日は勤務日です。また、普段は手の回らない備品や図書の点検・整理などもこの時期の業務の一つで、意外と大仕事です。とは言っても、休憩時間に休憩できるし、有給休暇もとりやすいので、時間的にも精神的にもゆったりしています。

 

 教職員の中には、「夏休みになったら(受診・通院)」と自分に言い聞かせ、体の不調と不安を抱えながら働いている人がいます。私の同僚もその一人で、春から体の調子が悪く、心配な場面が数回ありました。しかし、大きな行事を前に、私は「休んで」とは言えませんでした。大事に至らなかったのは幸運としか言いようがありません。

 

 教職員の精神疾患も危惧されるところですが、危険業務ではないはずの学校職場で、教職員の現職死亡は後を立たず、突然死も多いのが実情です。体調管理は自己責任といわれますが、休みがないのではなく、「休めない仕事の回し方」「休めない職場環境」が原因であれば、職場・業務の問題です。私たちの働き方の総点検は、大きな宿題となっています。

「7月の安全衛生のことば」(2014年7月掲載)

「身近な所にある危険個所~事故の原因解明と再発防止対策が急務~」

 

岩教組中央執行委員 澤田新一(研究会副代表)

 

 その事故は、4月に発生しました。県教委の主催する研修講座(1泊2日の日程で、宿泊が義務づけられていた)に参加していたKさんが、研修2日目の早朝、宿泊施設の敷地内で倒れているのが発見され、死因は転落による頭蓋骨骨折とくも膜下出血、宿泊室の窓から誤って転落したものとみられています。

 

 建築基準法施行令126条では、手すりの高さを110cmと規定していますが、窓の高さの定めはありません。しかし現在、ホテルなど高層の建物などでは、窓は密閉するなど転落防止の対策が施されています。実は、この宿泊施設では以前にも転落事故が起きていました。

 

 管理者が転落防止対策を行っていれば、今回の事故は防げた可能性があります。岩教組では事故の原因究明と転落防止対策を求めて要請を行っています。さらに、公務災害の認定も必要と考えています。

斎藤 由宣

「5月の安全衛生のことば」(2014年5月掲載)
「残業しても残業ゼロのブラック企業合法化では過労死防止はできません」

 

自治労日野市職員組合副執行委員長 古賀保行 

 

 安倍首相が「時間でなく成果で評価する新たな労働時間制度」を打ち出しています。その説明として「子育てや介護の世代が、自由な働き方を選べる」と歯の浮くようなことも言っています。これは第1次安倍政権時代に打ち出されたものの日の目を見なかった「ホワイトカラー・エグゼンプション」の焼き直しに他なりません。

 

  「規制緩和」と言えば、何かいいことであるかのように受け取られる風潮が蔓延しています。しかし、一般論としても「規制」には正当な意味があるわけで、特に労働分野の「規制」は労働者の権利と人間としての尊厳を守る当然のものです。むしろ過労死や精神疾患の急増にたいする「規制強化」こそ、求められてるのが今の現状ではないでしょうか。

 

 最低限の法的規制すら守らない会社は「ブラック企業」と呼ばれています。今回打ち出されたのは単なる「残業ゼロ案」に過ぎません。「ブラック企業」を合法化しようとするとんでもない代物です。

 

 現在、国会で審議中の「過労死等防止基本法案」とは、どう整合性をつけようと言うのか不思議でなりません。財界の「茶坊主」に過ぎない「ブラック首相=安倍」に「ノー」を叩きつけ、職場からのたたかいを拡げなければいけません。

 

「4月の安全衛生のことば」(2014年4月掲載)
「定年まで健康で働き続けられる職場ですか」

全国労働安全衛生研究会・事務局次長  織田 晴彦 

 

 春は出会いと別れの季節です。皆さんの職場でも定年まで勤め上げ、まわりに祝福されながら退職されていった方がいる一方で、ひっそりと定年を前にして退職されていった仲間もたくさんいたのではないでしょうか。

 

 総務省の「地方公務員の退職状況等調査」(平成23年版)によれば、地方公務員で定年まで勤め上げられたのは約半数の51.5%しかいません。その他は普通退職、勧奨退職など様々な言われ方をされますが、定年前退職を余儀なくされています。要は地方公務員の2人に1人は定年まで働けなくなっているのです。

 

 退職されていった方の事情は様々でしょうが、多く耳にするのは「身体がきつくてとても働き続けられない」という声です。

 

 年金の空白期間の問題を受けて雇用延長が大きな課題になっていますが、その前提となる「定年まで健康で働き続けられる職場」が破壊されている現状に目を向けていくことが、新入社員を迎えるこの春、必要になっています。

 

「3月の安全衛生のことば」(2014年3月掲載)
「春の嵐」

全国労働安全衛生研究会・事務局次長 羽田 圭二 

 

 2月の東京都内は、大雪となり交通手段への影響が出ました。2回の大雪は週末に降ったこともあり、通勤・通学にはそれほど影響がなかったのかも知れません。

 

 東京は、もともと雪害対策が施されていません。道路に雪が積もっても、除雪車の出動も期待できないから、自分の家の回りを雪かきするのが精一杯です。

 

 降雪によって最も影響を受けるのが屋外作業従事者です。週末のゴミ収集作業に影響が出て、各家庭から出された廃棄物の収集運搬が滞りました。住民からは、苦情の電話が清掃事務所に届いたという。

 

 かつて大雪の際、郵便局では集配業務に影響が出ると、「危険作業をさせないのは、使用者の責任だ」と、当時の労働組合は「使用者の安全配慮義務」を当局に迫っていました。

 

 今は、どうでしょうか?この大雪でも労働者への安全配慮義務は守られたでしょうか?

斎藤 由宣

「2月の安全衛生のことば」(2014年2月掲載)
「25周年を迎えた研究会活動の年頭に寄せて」

全国労働安全衛生研究会・副代表 山田 厚 

 

 自治体病院に関係する「新公営企業会計問題研修会」を2月8日に東京の連合会館で行いました。2月8日といえば、首都圏の交通をマヒさせる20年ぶりの大雪の日でした。私は甲府から何とか時間に間に合いましたが、2割以上の参加者が当日キャンセルです。また早めに帰らざるをえない参加者も続出。でもよく、この悪天候の中で30名ほどでの分散会ができたことに喜んでいます。

 

 私も、帰りの中央線はストップでしたので、新宿に泊まることにしました。しかし、いくらさまよってもどこのホテルは満室・・・。30年近く前に泊まったカプセルホテルを思い出してようやく寝場所を確保しましたが・・・とても寝ることができませんでした。翌日4時間以上かけて甲府にたどり着き、そして雪かきです。

 

 今回の研修会は、地方公営企業会計制度が2014年度から新会計になる対応として開催したものです。この新会計は、「民間の企業会計にあわせる」として、いままでの公営企業会計の「公共の福祉の増進」という経営の基本原則を、あいまいにし、放棄する方向になるものです。とにかく新会計では、同じ事業活動で同じ経営内容であっても、いきなり資産が減って、負債が大きくなります。特に単年度の返済の「流動負債」が極めて大きくなり、「赤字でこの病院ははもたない」という決算の表現になります。「数字はうそをつかない」のではなく、「数字は操作されてしまう」のです。その一方で赤字補填ではない法令で決められている一般会計繰出金からの収入は記載されないなど・・・本当におかしなものです。この新会計は民間の企業会計の原則である「真実性」「明瞭性」「継続性」などの原則からも逸脱していると考えられます。とにかく、自治体病院は、この新会計制度からも「赤字バッシング」され民間譲渡までの経営形態の変更が求められる環境がつくられます。

 

 自治体病院は地方において住民のいのち健康を守るためのセンターです。新会計のめざすものは、病院の市場化です。そのお手本はアメリカです。アメリカにはかつてあった自治体病院はいまではありません。大チェーン店のような民間病院と大学病院だけだといいます。救急車も有料・・・無保険の国民は5000万人といいます。民間保険に入っていても病院での患者負担はきわめて大きいものです。

 

 いわゆるアメリカ型の病院が目指されては国民の医療は守れません。地域の大切な医療を守るためにも新会計による自治体病院への「赤字バッシング」を是正させる必要があります。

 

 ほとんど知られてはいない新会計制度問題であっても大雪のこの研修会に14県の参加者が集まり取り組みをはじめたことは大切です。この問題でも、いのちと健康を守るための学習と交流からはじめていきましょう。

 

斎藤 由宣

「1月の安全衛生のことば」(2014年1月掲載)
「25周年を迎えた研究会活動の年頭に寄せて」

全国労働安全衛生研究会・代表 五味 明大 

 

 2014年をどの様な心境で皆様は迎えられたでしょうか。今日の独裁的な政府の横暴政治が時代の流れを逆行させるのではと感じている人は私のまわりにはけっして少なくはありません。

 

 それと共に経済の動きが公共事業、大手製造業を核として活発化してきています。ところがその反映は民間企業間の競争激化と自治体サービスの高まりとなり、従来に増して職場では利益追求・サービス事業が全てに最優先される働き様が進行しています。

 

 結果は働く者の健康と生命が代償とされ、「氷山の一角」であるブラック企業と称される職場に非人間労働が現実化しています。これもまた明治の製糸工場で働いた工女の労働と生活に類似した時代に遡っているのです。

 

 研究会は日本の労働運動で作られてきた労働・公務災害・職業病闘争の思想と理念「抵抗なくして安全なし」を継承して、個々の闘いの経験交流、教育宣伝、調査研究のセンター活動を25年間、そして新たに一般社団法人格としての存在責務が問われています。その研究会のさらなる発展を年頭に期したいものです。

 

 私自身にある健康と生命の闘いの原点の言葉は健康を破壊され必死の思いで補償認定を勝ち取り治療費用、休業賃金、解雇制限、元職場復帰等の当然の企業責任下で人間らしい労働条件を求めていった職業病罹病者たちのそれぞれ思いのこもっている言葉です。多くの罹病者を組合員から発症させてしまった昔年は忘れられなく鮮明です。

 

 「右手で字が書けない」「一生懸命働き健康を奪われた」「健康には自信があったが・・・」「自分の身体が自分のものでない」「ぐっすり眠りたい」「子供を5分と抱っこしていられない」「入社してすぐ病院通いの毎日」「労働者の味方のはずの労働基準監督署がどうして」「職場の見直しが大切」「誰もが健康で働けるために」「逃げることなく闘わなければ」・・・

 

 一生懸命会社のために働いた結果が若くして職業病という病気に苦しめられた労働者。人間としての日常生活まで破壊され、会社にも監督署にもはじかれた罹病者。 

 

 そして誰もが健康にと職場の労働条件・環境改善に立ち上がった組合員。罹病者の言葉は闘いのテーゼです。

斎藤 由宣

「12月の安全衛生のことば」(2013年12月掲載)
「東京オリンピック特需で
    生活安心ための整備や大震災復興に影響が出るのでは」

全国労働安全衛生研究会・事務局長  斎藤 由宣 

 

 2020年東京オリンピック開催が決まりました。開催については、賛否両論あると思いますが、東京オリンピック特需を期待する業界は数多くあると存じます。その中でも建設業界の期待はとびぬけているのではないでしょうか?

 

 巨大都市東京の建設ラッシュになるのかな。

 

 昨年の笹子トンネル崩落事故に代表されるように国民の生活基盤である公共の施設(橋梁、トンネル、高架道路、公の建物など)の老朽化が叫ばれている中での建設ラッシュはいかがなものかと個人的に思います。

 

 まず、生活者が普通に安心して暮らせるためのインフラ整備、補修工事を最優先に考えていただきたいと思います。

 

 また、東日本大震災で大きな被害を受けた東北の復興にも影響が出そうな気がします。いまだに我慢を強いられている人たちのためにも、東北の復興を急がなければならないと思うのは私だけでしょうか?

野中幹男

「11月の安全衛生のことば」(2013年11月掲載)
「果たさせよう!所属長に安全衛生の責務を」

全国労働安全衛生研究会・副代表 野中幹男 

 

 総括安全衛生管理者(殆んどは所属長)の果たすべき役割が労働安全衛生法に、より具体的に明記され、7年が経過しました。

 

 各所属長は、職場における労働安全衛生を確保するための旗振り役としての認識をどの程度果たすようになったのでしょうか。 

 

 自らの下で働かせている「労働者の生命」をどのように考えているのでしょうか。資本の論理からみても、時間と金をかけて一人前の労働者に育て上げてきた(設備投資した)にもかかわらず、自らの労働安全衛生に対する認識不足あるいは職務不履行から、労働者がある日から長期の休暇を取得する状況に至った場合、コスト面からも大変な損失だとは考えないのでしょうか。

 

 労働者の替わりは、新たに雇用すればそれで「可」とするのでしょうか?あるいは、替わりを雇用せず、その者の業務を周囲の労働者に分担させ、処理できればよいと考えているのでしょうか。
 必要最小限の人員で日常業務を処理している現状から、いきおい超過勤務・過重労働をせざるを得ない状況に陥るのは必至です。病者を出したがゆえの余分な経費支出の増加や、新たに過重労働による健康異常労働者をつくり出すと考えるべきではないでしょうか。

 

 いずれにしても、企業・当局は、各所属長に対し日常の業務処理の訓練は行っても、労働者の「生命と健康」を守るための「労働安全衛生の知識」を習得するための機会をいまだ十分に確保していないのが現状です。

 

 そこで、労働組合の任務は大きいのです。

 

 今こそ、労働者の生命を守る重要な闘いの一つとして、所属長に対する研修・訓練の実施を強硬に要求し、実現するための諸行動を、毅然と行なうことが求められています。

松澤悦子

「10月の安全衛生のことば」(2013年10月掲載)

全国労働安全衛生研究会・副代表 松澤悦子 

 

 9月12日、政府の規制改革会議(来年6月答申に向け)作業部会がスタートし、安倍政権は「企業が活躍しやすい労働法制の見直し」に着手しました。

 

 労働時間法制の見直し(残業代ゼロ)、限定正社員雇用ルール(解雇しやすい正社員化)、労使双方が納得する雇用終了(解雇)の在り方が主な検討内容です。さらに労働者派遣制度の見直し(あらゆる業務で無制限の派遣を認め)、助成金の変更(雇用維持から転職促進へ)など、無期雇用する前に雇い止めにして非正規が増え、リストラするほど人員整理したい会社と人材ビジネスが潤うシステムができてしまう。国家的な大リストラ作業が開始されます。

 

 アベノミクス成長戦略による労働の規制改革とは、直接雇用であろうが間接雇用であろうが、無期雇用であろうが有期雇用であろうが、多様な雇用の一形態に過ぎず、正規雇用で働きたいなら違法な労働時間で過労死・過労自死をも覚悟で働け、となります。使用者の安全配慮義務違反の責任追及もしづらくなり、過労死の認定規準の引き下げにも連動することとなります。

 

 今こそ「労働者は人間だ」と声を挙げよう。

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